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アルシオン通信

Alcyon Blog

映画 カテゴリへの投稿
2024年09月10日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年63本目】映画「箱男」観ました。

映画化もされた「砂の女」などで知られる安部公房が1973年に発表した小説を石井岳龍監督が映画化。
段ボール箱をかぶって都市をさまよいながら世界を観察する「箱男」を巡るストーリーが展開される。
永瀬正敏と浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市のほか、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太らが出演。
第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に出品された。

ダンボール箱をかぶって都市をさまよい、のぞき窓から外の世界を見つめ、ノートに妄想を記す「箱男」。
カメラマンの「わたし」(永瀬正敏)は街で見かけた箱男に心を奪われ、自分もダンボール箱をかぶってのぞき窓を開け、箱男になろうとする。
しかし本物を目指す道は険しく、「わたし」をつけ狙い箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)や、
わたしを誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)などが現れる。

【感想】
孤独、孤立が描き出すもの、それは世界の本質か、それとも。

まずストーリー。
独特すぎる設定を、言葉数をあえて減らさず、多弁雄弁に脚本にインストール。
これだけでもかなりの難作業、、。
よくぞここまで、と感じます。

次に演出、映像。
これはクラシックとパンクが入り乱れる、独特な演出であり作画。
リズムとスピードが破綻するターンと、ゆったりとした台詞廻しのターンが繰り返され、
次第に観客を困惑の世界へ導く作り。
これは安部公房の作家性の再現としては見事なチャレンジだったのではと感じます。

ただ、
やはりあまりに多弁な台詞回し、
変調しすぎる映像のリズム、
そもそも「箱」がダンボールの割に丈夫すぎる、、

など、基本的に入り込みにくい要素が多く、
「ぬぬぬぬぬう、、、難しいなこりゃ、、」
と感じたことも否めませんでした。

さて。

「完璧な孤独、完璧な孤立」

とは公房の描いた日々から今日を見事に言い当てたビックワード。

僕、僕らは
今この瞬間も孤立し、
自分を護る脆弱な箱の中で
小さい窓から世界をのぞき込んでいる。

箱の中からは自分の見たいものしか見えず、
匿名性は実に便利で自分の滑稽さを自分自身に気づかせない。

世界の普遍と人間性の不変を言い当てた作品、
恐るべきものを観てしまった感は強く残りました。

【評価・つけるとすれば】
3.6です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

もちろん「オススメ☆」です♪
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by alcyon | 映画観た
2024年07月15日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年46本目】映画「ルックバック」観ました。

藤本タツキによるコミックを原作とする青春アニメ。
小学4年生の少女が、漫画好きという共通点を持つ不登校の少女と共に漫画制作に邁進するも、やがて衝撃的な出来事が起こる。
二人の少女の声を俳優の河合優実と吉田美月喜が担当。
監督押山清高が務め、アニメーション制作をスタジオドリアンが手掛ける。

小学4年生の藤野は学生新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメートから絶賛されていた。
ある日、藤野は先生から不登校の京本が手掛けた4コマ漫画を学生新聞に載せたいと告げられる。
そのことを機に藤野と京本は親しくなっていくが、やがて成長した二人に、全てを打ち砕く出来事が起こる。

【感想】
こんなにも、こんなにも。終わらない青春、その純度に心抉られる、この夏最高の映画体験!!。

まずストーリー。
とりあえず原作を予習して劇場へ。
漫画の持つスピード感、ぎゅっと煮詰まった濃密さをどのように?
と心配が先行していたのですがまあったくの杞憂。
あの藤野が、あの京本が動き出す。
それだけでもう、エモーションは最高潮に。
原作を愛していることがまっとうに伝わる脚本とはこのこと。
脚色も愛しているからこそ。
純度の高い「リスペクト」を感じることができます。

そして作画、演出。
まず、特筆すべきはその上映時間。
55分。
この短さにすべてを賭ける潔さ。
原作の密度を絶対に薄めない覚悟。
マーケティングを考えれば、致命傷になりかねない決断を、あえて選択。
本当は存在した膨大な時間、目から血がにじむような努力の時間を観客の想像に委ねる。
制作陣にはよくぞ僕を、僕ら観客を信頼してくれた。
劇場が確実に一つになる演出、素晴らしい以外の言葉が見つからないです。

さて。

創作への初期衝動、
天才との出会い、
その天才の努力。
立ちはだかる壁。
芽生える友情。
突然の幕切れ。

どれもこれもが形こそ違え思い当たること事ばかり。

振り向くことになれて。
前を向くことに戸惑うようになって。

ルックバック。
ドントルックバック。

昔を懐かしむような気持ちで観ていた映画が、
いつの間にか今の現実を穿つものに。

諦めてしまったものは沢山あるけれど、
諦め切れてないもの、あるよね。

まっすぐにペン先を突きつけられたような感覚になりました。

今を生きるすべての大人に。
心からおすすめです!

【評価・つけるとすれば】
4.6です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

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by alcyon | 映画観た
2024年07月05日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年44本目】映画「人間の境界」観ました。

ポーランドとベラルーシの国境を舞台に、難民家族の運命を描くヒューマンドラマ。
2021年9月、ポーランド政府がベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令し、
ジャーナリストや医師、人道支援団体らの立ち入りまで禁止される中で、
入国を拒否された難民たちが生命の危機にさらされる。
監督などを務めるのはアグニェシュカ・ホランド。
ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカらがキャストに名を連ねる。

幼い子供を連れたあるシリア人家族は、ベラルーシを経由してポーランド国境を越えれば、
ヨーロッパに入ることができるという情報を信じて祖国を脱出する。
しかし亡命を求めてポーランド国境の森までたどり着いた彼らを待ち受けていたのは、武装した国境警備隊だった。
一家は国境警備隊に非人道的な扱いを受けてベラルーシへと送り返され、
さらにベラルーシではポーランドに向けて再び強制移送される。

【感想】
創作物が描き出す、紛れもない「真実」。
目をそらしてよいわけがない希望無き現実を撮りきった力作!

まずストーリー。
これは、まるでドキュメンタリーかと見紛うほど。
しつこく、綿密に取材を重ねたであろう事は疑う余地のない脚本、設定。
監督の執念はすさまじく、完全に圧倒されました。

そして演出、演技。
これもまた容赦なし。
シリア難民家族、ポーランド国境警備隊の青年、人権活動家、それに賛同する精神科医。
大きくは4つの視点から難民問題を取り扱っているのですが、一つ一つの視点が本当に鋭利な刃物。
観客の心の負荷を度外視し、現実を作り上げる事に尽くす、
これもまた執念を感じる作劇です。

強いて言えば
・やっぱり観ていて負荷が大きい、容赦なさ過ぎる
・登場人物が多すぎて整理が追いつかない
点はありましたが、まあ本当に強いて言えばの範囲です。

さて。
難民問題。
これは人権はおろか生命の問題であるのにもかかわらず、
人によって温度差のあるテーマ。
隣近所では無いことに心を割くのはなかなかに難しいのはもちろん承知。

それでも今日この瞬間に

シリアで
レバノンで
ビルまで
ダルフールで

世界中のどこかで受け入れられなかった人たちが死んでいく。
幼きものの未来が無為に失われていく。

それぞれの立場があろうともやはり目を向け無ければならない。
苦しくても目をそらしてはならない。

ラストシーン、あの光景、冗談のようなあの台詞。
僕には「別の問題」とはどうしても思えない。

これほど「観ない理由が見つからない」映画も近年なかったように感じます。

【評価・つけるとすれば】
4.4です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
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by alcyon | 映画観た
2024年07月04日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年43本目】映画「かくしごと」観ました。

親子と偽って少年と暮らす女性の姿を描く、小説家・北國浩二の原作を映画化したミステリードラマ。
事故で記憶を失った少年と出会った女性が、虐待を受けている疑いのある彼を守ろうと、母親と偽って一緒に暮らし始める。
監督を務めるのは関根光才。
杏、中須翔真、佐津川愛美のほか、酒向芳、安藤政信、奥田瑛二らが出演する。

絵本作家の千紗子(杏)は、認知症を患う父・孝蔵(奥田瑛二)を介護するために帰郷する。
長年絶縁状態にあった父親との同居にへきえきしていた千紗子は、
あるとき事故で記憶を失ってしまった少年(中須翔真)を助け、彼の体に虐待を受けた痕を見つける。
千紗子は少年を守ろうと考え、自分が母親だとうそをつき、少年と暮らし始める。
千紗子と少年、認知症が進行する孝蔵は次第に心を通わせるようになるが、その幸せな生活に終わりが訪れる。

【感想】
この嘘を、この愛を果たして断罪できるものなのか。
「社会の仕組み」の非情さに一石を投じる意欲作。

まずストーリー。
父と娘、母と息子という二重の親子関係を序盤で比較的わかりやすく、さっと説明。
この部分が抜群に効いているので、その後に起こるやや荒唐無稽な展開もすんなり飲み込める。
すんなり飲み込めるので、キャストの台詞や心情がこれまたわかりやすく、ダイレクトに響く設計。
原作は未読なのですが世界観はきっちり抑えていたのではと想像します。

次に演出や演技。
まず綿密なロケハンを行ったことは明らか、「あの場所」を探し出したことに感服。
さらにしっかりとしたキャスティング。
主演の杏さんのしっかりとした母性を感じる演技もさることながら、
奥田瑛二さんの役に殉じるかのようなインテンシティの高い演技、
中須翔真さんの子供ならではの生命力を感じる演技、
と見所を混雑させること無くすっきりと撮りきっているのは、流石、たしかな監督の手腕を感じます。

ただ、あえて言えば、、
杏さんの苦悩、狂気みたいなものがもう少し踏み込んでもよかったかも。
奥田さんにとってもチャレンジングな役作り、その分やや過剰。
には感じました。

さて。
お話は荒唐無稽で現実にはあり得ない。
千沙子の行動にも突飛な所を感じてしまうし、
冷静な大人ならやらないことばかり。

それでも尚、鑑賞して感じたのは、
「この過ちを責める事が果たして善良と言えるのか」
という自分への問い掛けでした。

世の中には「あの子」のような環境は実際にごまんと存在し、
意外と身近な所でも見聞きする。
他人事と割り切ってしまえば、「制度」に落とし込めばよいとも思ってしまう。
そしていつしか制度自体を疑わず、社会のゆがみから目をそらし、注ぐべき愛情を忘れてしまう。

ラストシーン。
少年の言葉、まなざし。

許される社会、
もっと優しい世の中を作ってこなかった大人として、
申し訳ない、苦しい気持ちになりました。

【評価・つけるとすれば】
3.9です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

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by alcyon | 映画観た
2024年06月26日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年42本目】映画「あんのこと」観ました。

入江悠監督が、世界的パンデミックが起きた2020年のある日の新聞記事に着想を得て撮り上げた人間ドラマ。
機能不全の家庭に育ちすさんだ生活を送る少女が、ある出会いをきっかけに生きる希望を見いだそうとする中、非情な現実に翻弄される。
どん底の境遇から抜け出そうともがく主人公を『少女は卒業しない』などの河合優実が演じ、
共演には『さがす』などの佐藤二朗、『正欲』などの稲垣吾郎らが名を連ねる。

ホステスの母親、足が不自由な祖母と暮らす香川杏(河合優実)は幼いころから虐待を受けて育ち、若くして売春に手を染め、さらに違法薬物の常習者になってしまう。
ある日人情深い刑事・多々羅(佐藤二朗)に補導されたことをきっかけに、更生の道を歩み出す。
さらに多々羅の友人である記者・桐野(稲垣吾郎)らの助けを借りながら、杏は新たな仕事や住まいを探し始める。
そうしてかすかな希望をつかみかけた矢先、世界的パンデミックによって事態が一変する。

【感想】
ゆがみきった世界の果て、わずかな希望のさらにその先。
観なくてよいものなのか、世界に問う意欲作。

まずストーリー、脚本。
これは「事実に着想」とのこと。
綿密に取材を重ねたことがよくわかる展開。
目を背けたくても背けられない、映画館という空間を十分意識した手加減のなさ。
かなり踏み込んだストーリー設計は制作陣の覚悟を感じます。

次に演出演技。
まずは主演の河合優実さん。
ライジングスターの輝き。
無理に社会に放り込まれた少女の幼さ、無防備さを正確に表現。
緻密な役作りはちょっと狂気のようなものさえ感じます。
佐藤二朗さん、怪演。
コミカルな役より、今回のような役どころの方が本筋なんでしょう。
上手いし、等身大に見えるし、言うことなしです。
一方、稲垣吾郎さんは二人に挟まれると役どころが定まらずやや窮屈に感じました。

概ねよくできてる映画なのですが、残念だったのは2点。
・よくできすぎていて、実話ベースとはいえ、荒唐無稽に感じる展開があった。
・ところどころ描写のエッジが鈍く感じる所があり、じゃあそのシーンはいらないのでは?と感じる点も。
以上は多少の違和感を感じながらの鑑賞になりました。

さて。
朝起きて、仕事して、夕方テレビをつければ悲惨なニュースと、それをかき消さんばかりのバラエティに溢れた、この世界。
見ないふりをしていれば、見たいものだけ見ていれば、過ぎてゆく日々。
負荷をかけずに生きていくための処方箋ではあるのですが、不意に訪れる重い気持ち。
気づいている、ホントは同じ世界の出来事だと。
あんのような少女はきっとまれでは無く、あんの母親は数え切れないほど実在している。
それは隣の誰かかもしれないし、もしかしたら自分だったかもしれない。。。

社会にコミットする上で、このことを忘れるなという強いメッセージを感じました。
気持ちのよい終わり方の映画ではありませんがおすすめしたいと思います。

【評価・つけるとすれば】
3.9です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

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by alcyon | 映画観た
2024年06月18日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年41本目】映画「碁盤斬り」観ました。

草なぎ剛と白石和彌監督が組んだ時代劇。
古典落語をモチーフに、冤罪事件によって藩を追われた男の、父として、さらに武士としての誇りをかけた復讐を描く。
脚本は加藤正人が担当。
草なぎふんする浪人の娘を清原果耶が演じ、中川大志、奥野瑛太のほか、斎藤工、小泉今日子、國村隼らが出演する。

いわれのない嫌疑をかけられて藩を離れ、亡き妻の忘れ形見である一人娘・お絹(清原果耶)と共に貧乏長屋で暮らす浪人・柳田格之進(草なぎ剛)。
落ちぶれても武士の誇りを捨てず、趣味の囲碁にもその実直な人柄が表れており、うそ偽りない勝負を心掛けていた。
しかし、あるきっかけから隠されていた真実が明らかになり、格之進は娘のために命懸けの復讐を誓う。

【感想】
正直とは何か。生き様とは何かを現代に問う王道時代劇。

まずストーリー、脚本。
これはまさに王道時代劇。
正直で無骨な主人公をしっかり中心に据え、登場人物ひとりひとりをしっかりと書き込む。
原案は落語とのこと、なるほどプロットの回収、起承転結のメリハリも鮮やか。
観やすさ、わかりやすさをベースにしているのでテーマがクッキリする、
ウェルメイドなストーリー設計です。

次に演出・演技。
まずは主演の草なぎさん、こんな役もできるのか!と驚くばかり。
いや、やれるんでしょうけど、ここまでの再現力、当時の価値観まで感じさせる役作りは圧巻です。
負けてないのが娘役の清原果耶さん。
その佇まい、台詞一つ一つに載せる感情の豊かさ、文句なし。
彼女の存在が作品の確かな下支えになっています。

ただ、
いかんせんストーリー展開は王道過ぎて先が読める点。
囲碁が重要なモチーフ、その割には「碁盤の中の出来事」がさほど話と絡まない点。
時代劇に見えない演技、準備しきれなかったのかそぐわないセットがあった点。
これらは残念に感じました。

さて。
武士であるには無骨であったり、融通知らずだったりが必要で。
一方、市井に戻れば実直なだけでは生きにくく。
これは現代においても職業人としての有り様と市民・家庭人としての生活に翻訳できる、通底の悩ましい構造。
振り返るに今作、
落語らしいオチで終わらすこともできたはずなのに、
あえての、あのラストシーン。
主人公、格之進の結論には強い共感を覚えました。

メッセージ性とエンタメが上手にブレンドされた作品で合ったと思います。

【評価・つけるとすれば】
3.9です。

ちなみに
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2024年06月16日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年39本目】映画「関心領域」観ました。

第2次世界大戦下のアウシュビッツ強制収容所所長とその家族を描いたマーティン・エイミスの小説を原案にした歴史ドラマ。
収容所の隣で穏やかに暮らすルドルフ・ヘス所長一家の姿を通して、それとは正反対の収容所の残酷な一面を浮かび上がらせる。
監督はジョナサン・グレイザー。出演はクリスティアン・フリーデルやザンドラ・ヒュラーなど。

ナチスドイツ占領下にあった1945年のポーランド。
アウシュビッツ強制収容所で所長を務めるルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)と妻のヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)は、
収容所と壁を隔てたすぐ隣の家で暮らしていた。
収容所からの音や立ち上る煙などが間近にありながら、一家は満ち足りた日常を送っていた。

【感想】
狂っているのは誰か。狂わせているのは何か。
人間という種の闇をあぶりだし尽くす問題作。

まずストーリー。
これは、かの有名なアウシュビッツが舞台。
淡々と、少しづつ、着実に進むストーリー展開から、急激なラスト。
当たり前ですが非常に確信犯的。
主題の骨格をきちり捉えた硬質な脚本でした。

次に演出。
これはただひたすらに「怖い」。
まず、音の演出、ひたすら不穏。
ギミックの効いた永続の演出。
意図的に青い空、、。
日常の描き方にいたるまで、平凡すぎて怖い、、、。
こんな手法があったのだと、意表を突かれました。

ただ、
アウシュビッツをテーマにした映画は数多く、
既知のの情報も過多の中での作劇、
新規性がどれほどあったのかといえばそこまででも無く。
衝撃度も耐性がついてしまっているのかこれもまたそれほどでも無く、
といった点は残念でした。

さて。
いつも思うのです。

アウシュビッツ、ナチスドイツによる蛮行、
このような惨劇を担うのは特別な狂人ではなく、
ただ日々を暮らす市井の人々であるということ。
そして今なお世界で続く、虐殺の数々。
これを許してしまっているのもまた、私自身を含む一般の市民なのだと。
原因はいつだって人間の業。
過剰に膨れ上がっていく欲深さと、そのために身につけた無関心というテクニック。
自分のため、家族のためと言い訳しながら、身近じゃない犠牲には目をつぶってしまう。
この積み重ねがいつしか集団の狂気に変容していく。

歴史から学ばなきゃいけないのに、繰り返されていく光景。
あのラストシーン、飽和、もしくは破綻していく有様は非常に示唆的。

過去を振り返る映画では無く、今を穿つ作品だったと思います。

【評価・つけるとすれば】
3.8です。

ちなみに
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2024年06月13日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
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【観た/2024年37本目】映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション前篇・後編」観ました。

浅野いにおの漫画をアニメ化した2部作。
東京上空に謎の宇宙船が浮遊する異常事態の中で、青春を謳歌する女子高生たちを描く。
アニメーションディレクターを黒川智之、脚本を吉田玲子が担当。
ボイスキャストには音楽ユニット「YOASOBI」のボーカル・ikuraとしても活動する幾田りら、
歌手やタレントなど多彩に活動するあののほか、入野自由、諏訪部順一らが集結する。

前篇
3年前の8月31日、東京上空に突如として巨大な宇宙船「母艦」が襲来し、世界は終末を迎えるかに思われた。
しかし上空に宇宙船が浮遊する光景は徐々に日常の風景となり、女子高生の小山門出と「おんたん」こと中川凰蘭は、
受験勉強に追われながらも趣味のゲームに興じ、
友人たちと共に学生生活を楽しんでいた。異様な状態が日常へと溶け込んでいく中、ついに悲劇が起こる。

後編
高校を卒業した小山門出と中川凰蘭は同じ大学に通うことになり、
そこで出会った竹本ふたば、田井沼マコトと意気投合し、オカルト研究部にも入部して大学生活を満喫していた。
そのころ、東京各所で宇宙からの”侵略者”が目撃され、自衛隊は彼らに対する駆除活動を粛々と実行していく。
さらに東京上空に浮遊する母艦からは煙が立ち上り、政府転覆を掲げて侵略者狩りをする過激派グループ・青共闘も暗躍するようになる。
凰蘭はそんな中、かつて遭遇した不思議な少年・大葉と再会する。

【感想】
この世界の狂気をチューニングするのはまた狂気しか無いのか。
ゆがんだ社会に巨大にな石を撃つ、真性社会派青春映画!

まずストーリー。

とにもかくにも確信犯的な脚本。
台詞一つ一つにしっかりとした意味をもたせ、
会話の流れの中にかりそめの平和を溶け込ませる。
ちょっと振り切れている台詞も「悪意」的に用意。
物語のテーマ性を脚本だけでも十分に持って行く、流石の力量です。

次に演出・演技。
おそらくは原作の世界観通りであろう、
書き込みの緻密さとダイナミックさはアニメーションの最高峰、流石の出来映え。
ロケーションの的確さ、原風景の描き出しも素晴らしい。
そして声優陣。
あのちゃん、幾田りらの二人、よくぞキャスティング!
この二人はまさしく今年のベストキャクティングオブジイヤー、
この才能を見いだしただけでも本作の価値があります。

さて。
日々生活していると、その営みが当たり前に優先で。
目の前に存在している「不都合」もこれまた当たり前に先送りで。
いつかのその日をやり過ごす、ただそれだけの日々をかりそめに幸福と呼んでしまう。

なんとか胸の中で封印している事実を目の前に晒されたとき、

どんな行動をとればよいのか。
どんな声を上げればよいのか。
冷静になればよいのか。
熱情を燃やせばよいのか。
いっそ狂ってしまうべきなのか。。

様々な感情を呼び起こされる作品で合ったと思います。
ぜひ身近な問題として捉えていただきたい一本でした。

【評価・つけるとすれば】
4.2です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
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伊東のホテル|伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオン
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2024年06月07日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
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【観た/2024年36本目】映画「ミッシング」観ました。

吉田恵輔監督が石原さとみを主演に迎えたヒューマンドラマ。
失踪した娘を捜す母親が焦りや怒り、夫婦間の溝、インターネット上での誹謗中傷などにより心をむしばまれていく。
青木崇高や森優作、有田麗未などが共演する。

沙織里(石原さとみ)の娘・美羽(有田麗未)が失踪して3か月。
沙織里は世間が事件への関心を失っていくことに焦り、夫の豊(青木崇高)との間にも溝ができ、二人は言い争うことが増えていた。
そんな中、美羽の失踪時に沙織里がアイドルのライブに行っていたことが露見し、彼女はインターネット上で誹謗中傷を受けるようになる。

【感想】
荒唐無稽な現実が「人」そのものを切り裂いていく。
監督の作家性が炸裂する意欲作。

まず、ストーリー、脚本。
実際にはありえなさそうな、しかしながら現実的に起こりうる事件。
ちょっとでもバランスを取り損なうとあっという間に崩壊しそうなきわどいストーリー。
多くも少なくもない台詞の数、的確なワードチョイスで紡いでいく。
こだわりきった丁寧さが一層問題点をあぶりだす、常に槍の剣先が目の前に突きつけられているような。
緊張感も十二分な脚本です。

次に演技、演出。
まず、なんといっても主演の石原さとみさん。
役と向き合い、役を身を捧げ。
テレビドラマで観る彼女、美人女優ぶりは完全に封印した、本気、ふりきりぶり。
素晴らしい、いや、すさまじい演技でした。
脇を固める青木崇高さんの感情を抑え込んだこらえきる役作り。
中村倫也さんの隠しきれない葛藤、ブレてしまう正義感もともに白眉。
どの俳優さんも脚本以上を狙っていることがはっきりわかる演技、
それに応える演出陣。
丁々発止の先につかんだハーモニー、素晴らしかったです。

さて。
おそらくはテーマである「無関心」と「悪意」。
これはどうにもこうにも身に覚えが無いとは言えず。
興味のあった痛ましい事件もいつの間にか新しい事件に上書きされ。
持っていたはずの憤りや同情といった感情も希釈されていく。
かろうじて覚えていることに振りかざす我が正義感の陳腐さ、恥じ入るばかり。
さらにはSNS上には不用意な書き込みだらけ、
デジタルタトゥーは時間を越えて他者を傷つける、ただ読むことだけでも加担していることにならないか、
これもまた自己嫌悪を感じました。

己の未必の悪意を向きあう2時間あまり。
貴重な体験だったと思います。

【評価・つけるとすれば】
4.1です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

もちろん「オススメ☆」です♪
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伊東のホテル|伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオン 宿泊プラン一覧
伊東のホテル|伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオン
by alcyon | 映画観た
2024年05月29日

こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
kazu_R

【観た/2024年34本目】映画「青春18×2 君へと続く道」観ました。

台湾の紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」を原作に描くラブストーリー。
台湾と日本の男女がアルバイト先で出会い、お互い惹かれ合う。
藤井道人が監督などを手掛け、俳優チャン・チェンがエグゼクティブプロデューサーを担当する。
シュー・グァンハン、清原果耶らが出演している。

高校生のジミー(シュー・グァンハン)のアルバイト先に、日本から来たバックパッカーのアミ(清原果耶)が現れる。
二人は夏の間同じ店で働くことになり、ジミーは4歳年上のアミに淡い恋心を抱くようになる。
バイクで夜道を走ったり、映画を観に行ったりするうちに、彼らの距離は縮まっていくが、
ある日突然アミが日本に帰ることになり、戸惑うジミーにアミはある約束をする。

【感想】
圧倒的な瑞々しさが、心の中心をしっかりと貫いてゆく。
語り継がれるべき、美しすぎる青春映画!

まずストーリー、脚本。

まず目を引くのは王道感たっぷりのストーリー。
ボーイミーツガール、ガールミーツボーイ。
この二つを掛け合わせて、研ぎ澄まして、純度の高い「青春」の雫を取り出していく。
予想のつく、既視感だらけの展開の中でしっかりスパイスの効かせ、結末の美しさに磨きをかける。
伏線回収の数も的確さも文句なし。
満足度の高さは生涯補償級の脚本でした。

次に演出だったり演技だったり。

まず一番に感じるのは監督、制作陣の映画に対する愛情の深さ。
様々な日本映画、台湾映画へのオマージュを織り込みながら、
どこか懐かしさを感じる台湾、台南市の情景を写し取っていく。

それだけでももう十分なのに。

主演の二人。
アミとジミー、清原果耶さんとシュー・グァンハンさんの演技が、
作り込まれた設定を演技で完全に越えていく。
一つ一つの台詞、ちょっとした目の動き、笑顔の意味。
本当に映画の中で生きていたかのよう。

さらには大人になったジミー。
そして出会っていく人々。

誰もが優しく、暖かい。

もっと露悪的なシーンを入れてバランスをとることもできたはずなのに、
あえてこだわった藤井監督の覚悟。
強いメッセージ性を感じることもできました。

さて。
いま、青春という言葉を口にすることなんてなかなかにない年齢になり。
振り返ると、いつあの日々が始まって、いったいいつ終わっていたのか。
あの瑞々しさは確かに自分にも存在していたはずで、無意識に枯れていて。

いったい何を探していたのか。
いつのまにか何を諦めてしまったのか。
持っていたのは何だったんだろうか。
棄ててしまったものはどこに行ってしまったのか。

そして、
今でも忘れていないこと、
達成できてないかもしれないかもしれないが、諦めていないこと。

そんなことを思い起こさせてくれる作品であったともいます。

遠く離れてしまった友人に、会いたくなりました。

素晴らしい映画体験でした。

【評価・つけるとすれば】
4.5です。

ちなみに
☆1 ・・・金返せ
☆2 ・・・DVDで十分
☆3 ・・・劇場で観る価値有り
☆4・・・・是非オススメ!
☆5・・・・生涯の名作!です

もちろん「オススメ☆」です♪
↓お読みいただきありがとうございました。宜しければぜひぜひコメント・クリックをお願い致します↓

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by alcyon | 映画観た

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こんにちは、伊豆高原の小さなオーベルジュ アルシオンのかずです。
伊豆の四季やイベント、グルメ情報などを中心に、時々は好きな映画や本などのこともUPしていきます。
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連絡先はこちらまで:0557-51-5600

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